「サードプレイス」の可能性を再考する
孤独について考えていると、必ず脳裏に浮かぶイメージが僕にはいくつかある。
その一つが、僕がよく訪れる深夜近くのスターバックスだ。
最近は夜8時に閉まってしまうから行っていないが、以前は夜の11時まで開いているスタバが帰り道にあり、そこに僕はよく訪れ、ブラックのコーヒーを頼み、30分でも1時間でも、パソコンかノートを開いて仕事をする。
僕の他にも大抵、パソコンを開いて仕事をする人、何やら分厚い本を開いて勉強をしている人、フラペチーノを飲みながらスマホをひたすらいじっている人、読書している人など、少なくない数の人たちが思い思いの時間を過ごしている。
大きな商業施設の中の一角にあるというのもあり、入り口はとても広くて、そこから奥へと伸びる大きな長方形のテーブルに、そういう一人ひとりが佇んでいるのがそのスタバに行くとまず目に入ってくる光景。
そこでは確かに、「各々が孤独を楽しんでいる」とでもいおうか。孤独でありつつ、集まり、互いのことは知らないし、語り合いもしないけれど、顔見知りではあったりもする、という、「孤独なのに孤独じゃない」という感覚を皆が共通して持っているんじゃないかと、その光景を見るたびに僕は思い、不思議な風景だぁと感心する。
「サードプレイス」という言葉でスターバックスが表現されてからかなりの年月が経ち、気づけばそれは「お洒落」で「楽しい」「カフェ」を意味する物のようになってしまった気もするけれど、本当の意味でのそれは、僕が目にしているこの、「一人ひとりが心地よい孤独を満喫する場」という意味合いも確かにあったんじゃないかと、言葉の元を辿って至った1989年発行の「The Great Good Place」(レイ・オルデンバーグ著)を読み始め思う。
そしてそれは、自分で作っておいていまだにその存在を定義する言葉を見つけられずにいるこの自由丁という場所も、スタバがその本当の意味での「サードプレイス」として呼ばれたように、一つの「サードプレイス」の形なのではないか、この思索の道のりの先に、ようやく僕はこの場所に合った一つの揺るがない定義を見つけることができるのではないかという期待も確かに含んでいる。
ここ日本では特に、「孤独」というと”loneliness"という英語が連想され、それはどこか物悲しい、寂しい意味を帯びてしまいがちだと感じる。
けれど僕がスタバで目にした光景も、そして自由丁で日々見つける景色も、確かにそれぞれの個人が孤独ではあるけれど(未来の自分へ手紙を書くなんて、孤独を楽しむ最たる方法の一つじゃなかろうか。)、そういうネガティブな雰囲気を全くまとっていない「孤独」だと感じる。
もちろん、一つの場所に集まり孤独を楽しんでいるという時点で寂しさが和らいでいるとか、程よい距離感で接してくれるバリスタや店員さんの存在もあり、”loneliness"という意味合いが薄れていると解釈することもできるけれど、むしろそもそも、同じ「孤独」の訳語が当てられている"solitude"という意味合いの孤独の方が、ニュアンスとして適切なんじゃないだろうか。
"solitude"は、"solo"(一人)という数字的な意味合いを元に持つ言葉であり、寂しさや孤独感という感情的な意味合いよりも、単にひとりでいる状態を表す意味合いが強い言葉と僕は認識しているけれど、そう思うと”loneliness"と"solitude"という言葉は実は並列ではなく、”loneliness"という言葉が表す状態から、寂しさや孤独感という、少し人の心を蝕む要素が薄れていった、もしくはそもそもない状態のことを"solitude"という言葉が表していると思えやしないか。
場所によって、”loneliness"が癒されて"solitude"になるのなら、「サードプレイス」とは単に住居とも職場とも違う居心地の良い場所という曖昧な意味の言葉ではなく、今この社会で必要とされる歴とした役割を表す言葉なのだと僕には思える。
何かと「その次」とかを考えたがる僕らだけど、「サードプレイス」に関して言えば、その次を考えるのではなく、改めて「サードプレイス」という言葉について再考することが、ウイルスやソーシャルメディアによって孤独感がある意味自動的に生み出される構造を内包した現代社会において、とても大事なことなのだと思わずにはいられない。
もうとっくに流行から遠のいた「サードプレイス」という言葉の可能性を僕は今改めて、ここ自由丁で垣間見ているのかもしれない。訪れる皆さんに、教えてもらっているのかもしれない。(終)
※この文章は自由丁の月刊ニュースレター「自由丁便り」2月号に掲載されたものを一部編集、掲載したものです。配信ご希望の方は自由丁HP最下部よりお気軽にどうぞ。
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